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ING DESIGN 4

2010年12月03日 08:00

この商品を生み出した「感動商品開発室」
経営の異なる会社が、同じコンセプトで同時に商品を開発し、同じブースで商品を提案するなんて、普通はありえませんね。そこにデザインを振興する新潟県の中央に位置する(財)燕三条地場産業振興センターの仕掛けがあったのです。

普通の研修は、共通の架空テーマで演習をし、開発手法を学んで終わり!終了証をいただいて「さあ、後は皆さん自分で頑張ってくださいね!」ということになります。
しかし、手法を学んでもなかなか自分だけで開発ができないんですね。
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そこで、同センターが知恵を絞り、各社持込のリアル開発テーマを、同じ部屋で情報を開示しながら、研修を受けながら実際の商品を開発するという、実に冒険的な!実験事業を行ったのです。

さまざま起こる問題
アイデアはいいのですが、なかなかこの様な研修は他の機関では行われていません。というのは次のような問題があるのです。

・企業情報と開発の内容を他社に知られたくない

・研修輔スケジュールに参加企業の足並みをそろえることが難しい

・企業の開発経験と能力にばらつきがある

・限られた時間で開発指導とマネージメントするノウハウがない

・結果リスクと生まれた成果物(知財)の取り扱いが面倒

・・・などなど、ちょっと考えただけでもたくさんの問題が予測されます。
市場で、地域社会で競い合う自立心が強い企業同士が、解決しなければならない問題が山積しています。しかし、このようなことが可能になったのは、デザインとは縁の深い洋食器産地であること。工具や刃物などの伝統産業がアイデアを出して、次々にユニークな商品を生み出す企業風土があったこと。加えて、当該機関が日頃から、デザインを経営の重要な資源として啓発し、長い間積極的に事業展開を行った実績があったことなどが背景にあるからでしょう。

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左:燕三条地場産業振興センター リサーチコア 右:呉軍港納入品(昔からデザインと関わりの深い洋食器を作っていた)

※これらのことに関する興味深い話は、また別の機会にお伝えします。

問題回避のために
解決するための重要ポイントは以下の5点で、これを確実の守ることができる企業のみ参加していただいたようです。

① 研修で創作した商品案は必ず商品化をすること

② 研修参加企業の情報を開示しお互いに硬く保持すること

③ 従来の開発手法を棚上げして習得する開発ロジックと手法を活用すること

④ 自社での他の商品アイテム(テーマ)と差を付けないこと

⑤ 常に経営者(社内組織)の承認を取り続けること

まとめると、「地場産センターという場所で、研修という名のもと、最新の開発ロジックと手法を学びながら、異なる企業が机を並べ情報を開示・共有し、実際に販売する自社商品を開発する」と言うものです。これらを実施するために、指導メンバーに、商品開発とデザインに詳しい弁理士の参画を得たことも、特筆すべきことです。

何故「ING DESIGN」というコンセプトを同時開発できたのか?
研修では、ただ新しい商品を開発するのではなく、売れていく市場をデザインすることと、商品を通じてユーザーをファンに育てる意識を徹底したようです。その結果、参加企業の間に次のような共通イメージが醸成されたようです。
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異なる企業が異なるテーマを、同じ手法を使い、同じペースで、同じ場所で開発したことが、自然に「ING DESIGN」という、共通の概念を生み出したのでしょう。これは、この地域の新たな商品開発のテーマとなる予兆を見せていて、今後の、また異なる企業による「ING DESIGN」の商品提案が楽しみなところです。皆さんも参考にすると共に注目して下さい。

以上で「IFFT展」から始まった「ING DESIGN」の話を一旦完結します。

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ING DESIGN 1 / 2 / 3 / 4

<参考情報>
このブログの読者には、各都道府県(行政)に所属する公設試験研究機関の方が多く、その方たちなら「ははあー」と感じておられると思います。
日本のデザイン振興の総本山は(財)日本産業デザイン振興会で、このブログの第1回目で紹介したグッドデザイン事業も、この国のデザインを応援する最大のイベントです。
その他に近年では、市や商工会議所もデザイン振興に力を入れていますし、私が最近お邪魔している(社)石川県鉄工機電協会さんなど、各種業界団体もデザイン研修に熱心です。このようなことを知っておくと、いざ、商品開発を実践しようとするときに強力な助っ人になります。

<協力会社様>
オークス株式会社
川口工器株式会社 
有限会社エフディー 
株式会社レビュー
峯特許事務所
(財)燕三条地場産業振興センター産業振興部 デザイン企画課 酒井 利昭様

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ING DESIGN 3

2010年12月02日 08:00

モノよりコトってどういう意味?
モノよりコトが大切!などと巷間言われて久しいのですが、プロのデザイナー以外は、それを念頭において開発することは難しく、ピンと来ないはずです。ややもすると、それらは空疎な論議を呼ぶことになります。
それに実際、デザインは、確かにモノ=カタチのことだけではないと思っていても、私たちがお金を払うのは、所詮、見ることができる。触ることができる。使うことができる=モノ(商品)やサービスなのです。

ただし、いいものだけど売れない・・・。と悩む企業にとって、モノがあればいいと思っていては間違いだ、と気がつきつつあることも事実で現実です。

さあ、どのように考えたらいいのでしょうか?

基本はこの事例(ING DESIGN 1 / ING DESIGN 2)のように、

・提案商品があってしかるべき状況まで研究対象を広げること(暮らしの研究)

・それらの結果を洗濯や収納のあり方、仕方に反映すること(コトの開発)

・あり方、仕方というソフトを具体化する新しい形(モノの開発)


これらを一式デザインすることがヒントです。ハード(商品)と共に、ソフト(新たな使い方)まで、セットでデザインすることが、つまりモノとコトのデザインなのです。

「ING DESIGN」のコンセプトを深堀する
以上4点の商品を紹介したカタログでは、コンセプトを以下のようにまとめられていました。

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“くらしの一こまではなく、快適に流れる動画のように、連続する行為をデザインしました。
くらしの動作を止めることなく、流れるように使いこなす道具。それがINGのコンセプトです。“


流れるように使いこなす(コト)=それをデザイン(モノ)したのです。

<流れるように使いこなす>その行為自身がコトで、そこに、近年言われている“デザインはモノだけではなくコトが重要!”と言う意味が含まれているのです。
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まさに、「IFFT」を見に行こう!で触れたように・・・「コト」とは、“ライフスタイル(流れるように使いこなす生活スタイル)そのものを提案する”といった言葉そのものに帰着しますね。

綺羅星のごとく洗練されグッドデザインが居並ぶIFFTで、この事例が、中小企業が見習う、デザインの解釈と仕事振りだと感じました。どうぞ参考にしてください。これらの考えで、デザイン開発を実践すると、新しい独自の土俵を持った、市場も同時に開発することができます。

資源の乏しい中小企業だからこそ、勝ち残るデザイン活用術です。ぜひ、今開発中の商品テーマを見直すことを強くお勧めします。

ING DESIGN 1 / 2 / 3 / 4

ING DESIGN 2

2010年12月01日 08:00

「OSSO」川口工器株式会社
「OSSO」は、イタリア語で骨という意味だそうで、ネーミングが示すとおり、座椅子の中に閉じ込められていたフレームを、クッションの外に露出させ、背後に張り出したフレームデザインが特徴のスタイリングです。赤いフレームが扇情的で心をトキメかせてくれました。フェラーリの座椅子(笑)って感じもしました。座らせていただきましたら、今までにない剛性感にあふれたドイツ車のような座り心地でした。

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従来の座椅子のフレームより、数倍の剛性を実現し、ロングライフの商品にするために、かなり太いパイプを使っていることが一見してわかります。バイクで言えばカウルを脱いだネイキッドタイプだそうです。

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キャッチフレーズは、“自分の好みに合わせ永く使えるフロアチェア“で、背抜け尻ぬけせず、後ろの倒れない!など座椅子の3大欠点を克服。さらに簡単に着せ替えができるという、使い続けることができるように、いつまでも新鮮さを「ING」していくデザインです。
これから提供されるであろう、さまざまなバージョンによる進化がとても楽しみです。

座椅子というと、フレームを分厚いクッションで着包んで、一見リッチそうなスタイルで、見栄え以上に安価な値段が設定されている商品を想像します。しかし正直な話が、“お値段どおり”背中と尻のクッションが抜ける。あるいはフレームの耐久性が乏しいなど、「あーやっぱりなぁ・・・安い分だけあるわ」と諦め、失敗した記憶が薄まったころに、ホームセンターで新たな企画の座椅子を見つけ、また購入してしまう・・・。こんな消費をした覚えがある人が多いのではないかと思います。これらのネガを徹底して追求し、新たな座椅子のポジションを創ろうとする意欲に溢れた商品です。

この商品デザインは、地元新潟市に居を構えるデザイン会社と、川口工器さんの協力で生み出されたものです。

「Bee」川口工器株式会社
もうひとつの提案商品がというもので、“散らかりがちなリビングの「保管・動作」の新しいスタイル”を標榜したものです。

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この商品は収納家具の扉を開けると、家具から出し入れできる布製のバックが入っています。「ははぁー、これは鞄の中身か!」と、直感的に理解できます。もっと言うと、引き出しの中にしまった見つからない大切なものを、じっくり探すために、引き出しごとテーブルに持ってくる。誰にもあるそんな経験が、この商品を生み出す元になっているのでしょう。

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スチル写真からムービーに
ただ収納するというスチル写真のような細切れな単機能を、取り出す→使う→仕舞う→保管する。という一連の営み、行為全体を、ムービーのようにとらえているところがこの商品の真骨頂です。携帯電話の家でのホームポジションが、充電装置機能付きで用意されているなど、細かな「ING」がうれしいものです。

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この商品も、単なる収納家具という商品分野で、大きさ、素材、価格、機能で比較さ値踏みされることを避けて、新たなブルーオーシャンを創ろうとしている意図が見えます。そのために、収納の前後に関連する“収納したものを必要な場所に持ち出す、必要な時間じっくりそこで使う、一日の用が済んだら戻す”そんな生活行為全体をデザインテーマに取り入れ、結果的に新しい収納家具に仕上げた!これからの中小企業が生き残るデザインアプローチが見て取れます。

この商品デザインは、地元で経験豊富なデザイン会社と、川口社長を筆頭とした「社内収納研究会」が総力を挙げて完成させたものです。

ING DESIGN 1 / 2 / 3 / 4

ING DESIGN 1

2010年11月30日 08:00

「ING DESIGN」とは?

一旦、話題をIFFT展にもどします。
IFFT(interiorlifestyle living)はご覧になりましたか?
行くことができなかった方のために、お約束どおりレポートします。

「Washcom」株式会社オークス
“くらしの中で、流れるように使いこなす道具”というキャッチコピーで表されているように、単なるそこには道具という言い方では済まされない“何か”がありました。

洗濯機の上の棚が生活感丸出しでも「仕方がないかぁー」と、あきらめていた人に、使うときだけ手元に来る“降式の収納”が用意されていました。ここまでなら「あーキッチン上の昇降メカを使ったのね」というところでしょうが、このプロダクトは、洗剤、ハンガー、ピンチなど、あまり嬉しくなくても、なければならない、必要なものを一式見事に片付けられる!痒いところに手が届くデザインがされていました。

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しかし、この商品の真髄は、“お洗濯をデザインするランドリーユニット”と標榜するもっと凄い仕掛けがあったのです!

・収納部からハンガーポールを手前に引き出しハンガーを取り出す

・洗濯が終わった衣類をそのままハンガーにかける

・収納ボックスの側面に用意されているチョイ掛けポールに生乾きの衣類をかける

こんな具合に、洗濯の流れを収納具が応援して、ストレスなく洗濯ができる!という、文字通り「ING家具」だったんです。洗濯行為を応援する仕掛けをデザインしたのですね。
つまり、洗濯用品収納家具ではなく、洗濯行為応援家具だったわけです。

この仕掛けに気がついた人は、「あっ!これはいい」といって、ニコニコしながら確かめていました。デザイナーの中心人物は若い主婦さんのようでした。

「music gallery」株式会社オークス
“収納ではなくコレクションを楽しむCDラック”という触れ込みの商品でした。
ミュージックギャラリーというだけあって、これも単なるCD収納家具ではありません。音楽鑑賞を楽しむ時間をデザインしたのでしょう。
上段の収納スペースは引き出し式で、表にお気に入りのCDジャケットがディスプレーできるようになっていて、それ自体が音楽ジャンルやアーティスト分類を容易にしています。

下段は、これが懐かしい!僕ら団塊世代が夢中になって、お目当てのタイトルをパタパタたおしながら探した、あのレコード屋さんの店先に販売什器を髣髴させる、引き出し式になっていたんです。

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中段がこれまた嬉しいミニコンポ棚になっていて、ご丁寧にヘッドホンディスプレーまである拘り様でした。ちなみにデザイナーは大のJAZZマニアで、展示会で使ったCDはすべて私物とか(笑)。仕事に来られた人が個人的に、熱っぽく「買いたい!」といっていたそうです(笑)。

「ING DESIGN 家具」とは、生活の営みをスムーズに、気持ちよく、感動的に、応援する機能を持ったものでした。

いかがでしょうか?単なるもののデザインで終わると、いくらなの?って聞かれ、競合他社の商品と比較され、バイヤーさんに選ばれる側になりますが、この事例のように、あらたな土俵をつくり、あらたなご利益(コンセプト)を開発すると、見た目(スタイリング)も新鮮になり、中小企業でも立派に大企業と渡り合えます!この全体の創造がデザインだと思ってください。

それでは、次回はもう一社、川口工器株式会社さんの提案された「OSSE」と「Bee」をご紹介します。これにも「ING」という思想が流れています。

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