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デザイン事例3:内から外に 伝えるカタチ

2011年05月24日 17:38

最後にスポーツエクイップメントのデザイン事例です。

molten
モルテンウェブサイトより

モルテンは知る人ぞ知る、サッカーボールの亀甲パターンを作ったメーカーで、
アディダスのOEMを担当するなど全世界のボールメーカー中でも高いシェアをもつ会社です。
特にバスケットでは絶大な指示を得ていますね。国際バスケット連盟のワールドカップ公式球で、
デザインも著名なイタリアのインダストリアルデザイナーであるジウジアーロに依頼しています。
それと小学生のお子さんがいるお家は運動会などでモルテンのロゴをよく見かけるのでは?
実はスポーツ用品店を通して学校販売が強く、各種ボールに始まり得点板、ライン引き、ビブスなど
多くの商品を提供しています。

スポーツ事業部のブランドステートメントは「For the real game」

「完璧なボールとスポーツエキップメントによって
プレーヤーのパフォーマンスと意志が100%発揮される時、
そこに本物のゲームが実現する。」


を掲げています。
商品としてボールの真円度や圧力を保つ弁など、技術課題のレベルを引き上げ、
それをクリアしていく活動をしています。

事業の出発点としては、高度成長期時代の技術の置き換えから始まり、客先からの依頼に対応して改良し、
横展開で機種を増やす…世の中のものづくりのほとんどとも言える成長曲線です。
時代時代に在社した担当者の技量と興味のある領域とのマッチング、
それに仕上げのよいデザインが施されていくつかのヒット商品が生まれてきました。

しかし、継続性がなく単発のヒットで終わってしまう事が多く、営業活動とも連携がとれず、
次第に売り上げ低下で商品自体が消滅…
それが失敗なのか成功なのか追跡調査もしていないので、わからない。
実際に誰かが喜んでいるのか、よくわからないし興味もない…
じゃあ次は何をしようか?いくら売り上げる?という事が繰り返えされてきたようです。

ここではモルテンさんの活動を指摘していますが、
実際に使用している顧客の喜びがよくわからないというのは、
ここまで紹介してきた全部の事例に当てはまること、
しいてはクルーが知る世の中の企業ほとんどに当てはまる
と思っています。
日本の企業にデザインセクションはおろか、商品企画も組織にないことがある状況に
経営者やスタッフが興味を持たないまま過ごしてきてしまった弊害がものすごく出ています。

そんなわけで、まずは既存商品の改善とそれを魅力ある商品としてどのように顧客に伝えるか、
その繰り返しで継続性のある開発と商品マップを作るところから始めました。

まずはウォーターペンです。
これはグラウンドなどで使うラインカーですが、石灰ではなく、水で線を引く所が大きな特長です。
waterpen1
モルテンカタログより

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デザイン事例2:鍵を見るとわかること

2011年05月13日 01:23

eyezu


次は鍵を持つ人であれば誰しも体験した不安な気持ちを解消する鍵、「アイズ」です。
ちょっと大げさな書き出しですが(笑)時間がなかったり気が競っているととてもよくあることです。
僕もあれ?どーだっけ?ということがとてもよくあります…(苦笑)

それは鍵をかけたかどうか、出かけた途中に気になってしまうことです。
よくありませんか?

車で外出した際に高速に乗って奥さんから、「ねえ玄関の鍵かけた?」と聞かれたり
高層マンションでエレベーターに乗って一階まで降りた時に、あれ、鍵かけたな?と不安になるとか。


awaterukoto

急いで出かけてしまって戻るに戻れない時に限ってそういうことがありますよね…
そういう時に鍵を見れば施錠したのかどうかがインジケーターでわかるようになっています。
これは鍵だけじゃなくて、持ち物を忘れていないかどうか、
忘れっぽい自分としてはすべてのモノについていて欲しいぐらいです。(笑)

アイズもキーキッス同様、鍵を使う際の気持ちについて発想した結果生まれた商品ですが、
これらは電子的でなく、機械的に解決しているところに意義があります。
構造もいたって簡単で、特殊な技術や素材が採用されているわけでもありません。
電子化すれば様々なオプション情報も盛り込めますし、小さくもできるかもしれない。
さらに現状ではインジケーターが解除されてしまう事もあり、これに全幅の信頼をおけるわけではありません。
ですが、鍵掛けの意識が芽生えればそれで成功、と思い切ったおかげでコストや電池切れの問題から解放され、
施錠忘れによる窃盗に悩むマンションディベロッパーなどに採用されやすくできました。

デザインとしてはもっと理想的な形や手段を想像しえるのですが、機械的解決に共感しているので、
携帯性でなく操作性や視認性に工夫をしました。
機構を収めると必然的に大きくなるので、その分握りやすさを訴求し、
鍵をかける際の感触はキーキッス同様に向上できたと思います。

余談ですが、車のスマートキーを使った際に、すごく不便を感じました。
鍵を取り出す行為がいらなくて便利にはなったのでしょうが
機械からのリアクションがないためにいろんな意味で意識が希薄になるのです。
それに加えてスタートボタンのガサツな感触が…(苦笑)
何かが始まるという感覚がすごくないがしろにされている気がします。

最初に書きましたが鍵は金属の板で刺して回すだけの、変わり様のない商品だと思われてきましたが、
まだまだやることはありそうです。
何より、人生で一番高価な買い物であり、生活の基盤である家の重要な構成部品が、
ただの金属板しかない現状でよいのでしょうかね?

オプナスさんでは「セキュリティを愉しくしよう」という事業コンセプトをかかげて商品を生み出し続けています。
人々が疑心暗鬼にならず、鍵をかけなくても自然と守られているような、古き良き町内会のような
セキュリティが理想、と考えているようです。
デザインする際にも常にこのアイテムを愉しくするには?できる限り盛り込むようにしています。

鍵を見るだけで持ち主や家の表情がわかる、ニヤっとしてしまいそうな、そんなモノを提案していきたいですね。

デザイン事例2:鍵をかける行為をデザインする

2011年05月09日 20:00

続いては鍵の事例を2つほど。

keykiss1

左に置いたUSBメモリーに似ているのがキーキッスです。
これも鍵なんですが、一見して鍵に見えません。
そういう鍵が使われる状況ってどんなことでしょうね…?
通常、車のスマートキーの様な電子キーでなければ鍵は使う時に取り出さなければならないわけですが
この取り出す行動の際に日常的に注意を払っている人がいます。
それは…

働く女性なんですね。

これは鍵の持ち方に着目したことから始まった商品開発なんですが、
アイデア発想をしている中で男性と女性では意識がかなり違う事に気がつきました。

男性は抜き身というか鍵を露出させて持つことに馴れていて、
アクセサリーの様にジャラジャラさせていても不安はありません。
ところが女性は鍵をキーケースに入れたり、鞄のポケットにしまったりしています。
ほとんどの女性は鞄を持って行動しますが、鞄の中で見失わないように、と
他のものを傷つけない、絡まないように気をつけているということもあります。
それより以前に、金属の部分を露出させることを恐れているフシがあります。

なぜかというと、仕事からの帰宅時に夜道で鍵束の音が鳴ったり、金属部が反射して光ると
自分の存在を誰かにアピールしてしまうような気がするんだそうです。
ある女性は鍵の金属部を外に露出していると、裸をさらしているような感じがする、
と話していたくらいです。

kitaku_fuan

ドアの前で背中を向けている時間を短くしたい、

さっと取り出してさっと家の中に入りたい、

しかし事前に鍵を準備する事は自分の家が近いことを表してしまう、

タクシーの運転手ですら信用できない…

帰宅の遅い女性会社員の方は、様々な工夫をして犯罪から身を守る努力をしているんですね。

キーキッスを展示会に出した際に、特に女性から「何これ、欲しい!」と圧倒的な要望があったそうですが、
女性の感性のすごい所は、これらの事が一瞬にわかるんですね。
男性は理屈が必要なので、このように状況をくどくど説明する必要がありますが(苦笑)
直感力で購入する女性には見ただけで狙いが伝わりました。これはうれしい成果でした。

ちなみにキーキッスの名前の由来ですが、キー(鍵)がキスする?何のこと?って感じですよね。
これは先端の形状と鍵穴の形状がピタッと合うことで、
大幅に差し込みやすさが向上していることから付いたものです。
別に磁石が入っているわけではないですが、ラフに操作してもスッと入ります。

key&silinder

元々鍵穴が目立たないゼロフラットシリンダーを組み合わせることを前提としていたので、
鍵穴ががわかりにくくても吸い込まれるように鍵が導かれるので、
鍵穴に微妙に入らなくて何度か差し込み直すような事が減らせます。
これも、急いで家の中に入りたい女性には有効なデザインです。

この他にも厚みがあるおかげで指をひねるだけで回せるなどのメリットがあるのですが、
体験しないと魅力が伝わりにくい商品であることは確かです。
このように細かく描写したり想像力を掻き立てるような文章にしないとなりません。
ジャパネットタカダの高田社長のように、魅力を伝える言葉を発しないといけないですね(苦笑)。

この鍵とシリンダーはクルーにもサンプルが置いてあります。
機会があればぜひクルーに来て体感してみてください。

つづきます。

デザイン事例2:

2011年05月02日 23:33

次にご紹介する事例は、(株)オプナスのセキュリティ機器です。

opnus_kizon
(株)オプナスウェブサイトより引用

セキュリティというと幅広くなりますけど、基本的に機械加工部品の錠前が主な商品です
銀行の金庫の鍵から始まり、自動販売機の鍵などを経てオフィス機器や建材業界に進出し
たびたびワールドビジネスサテライトのトレたまに取り上げられるなど、
新しい価値を持つ商品を提案している気鋭のメーカーです。

現状では、建材部品であるドアの、そのまた一部の部品である錠前は、
最終商品でないためにエンドユーザーが選べる機会がなく、一生懸命データやマーケット分析をして
アイデアを盛り込みデザインを施しても、ユーザーとの間にいるドアメーカー、ハウスメーカーに
なかなか価値が理解されません。
購入する人と使う人が違うからなのですが、こういうケースは日本の産業では非常に多くある事です。
企業の皆さんは自分の業界は特別で、コンシューマーの様になかなかうまくいかないんだよ!
と思われている事が多いのですが、何も特殊な話でもないんですね。(苦笑)

きっかけは、役員の方が馬場が担当していた中小企業大学校の研修に参加されて手法を体験していただき
考え方を理解していただいた所から始まり、社外企画会議形式で、月一のミーティングを重ねてきました。
当初から3X4デザインプログラムを使って企画をしています。
この手法がマッチした商材なのか企業規模なのかは不明ですが、面白い商品が次々と生まれました。

まずはサムターンのパタンテです。
patante

オプナス パタンテカタログより引用
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デザイン事例1:楽しみを形にする

2011年04月19日 22:32

そして数年後、もっとエンジンらしい造型を施したEKR-113のスタイリングを行うわけですが、
本当は最初からここまでいきたかったんですね。

DSC_0011.jpg

担当役員の方から換えたいという旨を伝えられた時、やっぱり!と思ったものでした。
しかし、これは実感なんですが、デザイン案を受ける企業側が本当に変化を求めていなかったり
求めていても受け止める心づもりがないと、うまく噛み合ない、
浮ついた変化になってしまいます。(社内で温度差が生じるなど)
そんなわけで、デザインの刷新はタイミングであり、かつ一足飛びには進まないと思ってます。

そしてもう一つ、キャビネットタイプ工具箱のEKXです。

ekr_ekx

収納量からもわかるように、EKRシリーズよりプロの整備士をターゲットとしています。
上部を斜めにカットした外形やシルバーのハンドルが特長的ですが、
これらはプロの仕事ぶりや日本の作業環境を考慮した形になっていて、
赤色の三段を常時引き出して使用でき(図参照)、引き出しても倒れないようになっています。

ekx-108a_activeconsole.jpg

ハンドルは壁に収められていたキャビネットを引き出すために有効な位置に取り付けられていて、
それまであった工具箱とはハンドルの位置も方法も根本的に異なっています。
何より、工具型のハンドルを採用した事で特徴的な顔づくりができました。
ここは本当に使える工具にしたかったのですが、
あんまりにも高価になるのであえなく不採用でしたが(笑)

どうでしょう?プロでもホビーユースでも、作業に求められる条件が違うだけで
考えるべき項目は変わらないですよね?
それであるのに、従来とは違う視点、デザインの商品が作り出せると思いませんか?
プロユースの方が時間や物品管理など、項目としてわかりやすいですが
遊び心や楽しみを感じながら作業する、という点はこの時代に仕事をしていく上で
かなり重要な要素だと思います。
生活がそうであるのに、仕事だけ我慢しているのはおかしいですよね。
そして、楽しみを形にするのは、今のところデザインの仕事です。

もう一度お伝えしますと、インダストリアルデザインは
モノだけを見てスタイリングデザインをしていません。
特に道具のデザインの場合は、準備してからしまうまで、もしくは使わない時まで、
すべてが着眼すべき対象になります。
その道具に対して何が重要なのか、どういう発見があるのか、そういう視点で考えると
機能・性能・コストダウンを追わなくても済むようになりますよ!

初回なので気負って長くなりました(苦笑)
こんなところで…次回はセキュリティ関連機器のデザインについてお話しまーす!